マイ・フェイバリット・タダタケ vol.1

男声合唱において数多くの名曲を生んだ、多田武彦先生の作品を詩と共に。

今回はしっとりとしたバラードを3作品。

 

1. かきつばた

男声合唱組曲「柳河風俗詩」(北原白秋

多田武彦のデビュー作である組曲の3曲目。郷愁たっぷりの詩とノスタルジックな響きの音楽が見事にマッチしている。冒頭のユニゾンの弱奏から世界に引き込まれていく。

柳河の
古きながれのかきつばた、
昼は ONGO の手にかをり、
夜は萎(しお)れて
三味線の
細い吐息に泣きあかす。
(鳰(ケエツグリ)のあたまに火が点いた、
 潜(す)んだと思ふたらちよいと消えた。

*ONGO→良家の娘(柳河語)

創価合唱団「かきつばた」男声合唱組曲「柳河風俗詩」より - YouTube

 

2.地球

男声合唱組曲草野心平の詩から・第三」(草野心平

関西大学グリークラブ初演(1987)。冒頭の3行だけで世界に引き込まれてしまう。この言い回しがとても自分好み。(実は、先日この作品を歌う機会に恵まれたのだが)歌えば歌うほど、聴けば聴くほど色々な魅力が出てくる素敵な作品である。

青いガラスのフラスコについた。
見えないごみのわたくしを。
月から眺めるわたくしです。

   居酒屋の。
   あぶらのぬけた二日酔ひの。
   起(た)てない朝の鉛色。

月から見るとメロンにも見え。
網の目のやうに光る血管が流れてゐるが。
たしかに光の道道が。
縦横無尽に流れてゐるが。

   すすぼけた天井をいま。
   眺めてゐるのはわたくしです。
   地球は方方ぶすぶすいぶり。
   わたくしはしばらく沈みます。
   すきま風になでてもらつて。
   布団の中に。

2 地球 男声合唱組曲「草野晋平の詩から・第3」 関西大学グリークラブ - YouTube

 

3.雨

男声合唱組曲「緑深い故郷の村で」(伊藤整

タダタケの「雨」といえば、組曲「雨」の終曲(詩:八木重吉)が有名であるが、筆者はこちらの伊藤整の作品も非常に好きである。とにかくBaritoneのソロが非常に美しい。ナイーブな心がありのままに描かれた詩には非常に共感できる。

雨の降る日
私の心は花壇の白い花のように
雨にたたかれて乱れてしまふ。

私は頼るものを知らず
人の心も信じようとはしない。

さびしく荒れた心に眺める
暗い紫の地には 雨が降って降って
いつまでも降り続いていて

そこに夕方の闇がくると
泣いたあとのように悲しくつかれて
私は眠るのだ。

【多田武彦】男声合唱組曲「緑深い故郷の村で」3 雨 - YouTube